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札幌高等裁判所 昭和31年(ラ)54号 決定

抗告人 市川長治

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

民事訴訟法第六八七条第三項の競落不動産の引渡命令は、強制執行の方法に外ならないものであるから、右命令に対する不服の申立は、まず同法第五四四条により異議を申立て、その異議却下の裁判に対し同法第五五八条の規定にしたがい即時抗告の申立をなしうるものと解すべきところ、本件記録によれば、抗告人は競落不動産引渡命令に対し異議申立をすることなく、ただちに本件抗告をなしたものであって右は不適法として却下を免れない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八三条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)

抗告人市川長治の抗告の趣意

昭和三十一年八月二十七日札幌地方裁判所が昭和三十年(ケ)第二一九号不動産競売事件の昭和三十一年(ヲ)第一六一号不動産引渡命令申請事件に付き別紙目録記載の不動産に対し為したる不動産引渡命令を取消該不動産引渡命令は之を却下する。

右趣旨の御裁判を仰ぐ。

理由

一、千歳郡千歳町朝日町三丁目四番地債権者滝城文子同郡同町幸町一丁目十二番地債務者兼所有者中村英雄札幌郡厚別町東区五八三番地連帯債務者市川長治間の札幌地方裁判所昭和三十年(ケ)第二一九号不動産競売事件に付き昭和三十年十二月十日同庁が別紙目録の記載不動産に対し不動産競売開始決定を為した。

二、其の請求金額は左の通りである。

一金六拾万円也 貸金

一金九千七百六拾壱円也

昭和三十年八月二十九日より同三十年九月三十日迄三十三日間日歩四銭九厘三毛の割合に依る利息計六拾万九千七百六拾壱円也

外に元金六拾万円也に対する昭和三十年十月一日よりの完済迄日歩金九銭八厘六毛の割合遅延利息

三、然れども即時抗告人たる連帯債務者は右開始決定送達される以前より肩書住所地に居住せざるものである。而して昭和三十一年七月二日本件不動産を債権者本件引渡命令申請事件の競落人たる滝城文子が同裁判所に於て競落許可決定を与えられてより後最近になつて本件不動産競売事件並に競落許可決定の事実を知り且つ本件不動産の引渡命令の送達を知りたるものである。

四、即時抗告人は本件不動産の形式上占有者であるが事実上は市川みつゑ市川正一等の占有である。

五、而して本件即時抗告の理由は本件抵当権は実体的に存しないので抵当権の実行のための競売にあつては抵当権者の売却権に基ずかなければならない。然るに抵当権は実体に存在せず且つ其抵当権設定の原因事実たる金銭消費貸借契約は右滝城文子、中村英雄即時抗告人連帯債務者間に成立なかりしものである。従つて実体上抵当権を有せざる競落人兼債権者滝城文子が本件不動産を競落し之が所有権移転登記を為すと雖も引渡命令を求むるの権利は之を有せざるものである。換言せば実体上において債権者兼競落人に対し所有権は移転しないのである。然れば本件不動産引渡命令はこれが取消され該申請は却下さるべきものである。

六、即時抗告人は前記の事情の下に債務不存在並に所有権移転登記無効の訴訟を提起するも競売開始決定に対する異議申立及競落許可決定に対する即時抗告の時期を失したる次第である。

七、本件は強制執行を続行すべからざる重要な件で直ちに疏明書類を整備提出し即時抗告の理由を立証するものである。

八、尚本件不動産競売申立書添付の登記簿謄本によるも本件の如き金銭消費貸借契約並に抵当権設定登記等があり得べからざる状態の下に手続されしものであることが判明するものであり本申立の理由書は追て提出する。

(別紙目録は省略する。)

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